愛があふれる、愛媛プロレス

日本各地で密かな盛り上がりを見せている、ご当地プロレス。団体所在地の特産物や名勝地などにちなんだ名前のご当地レスラー達が、地元愛をベースに、プロレスを通して町おこしや地域貢献をめざして活動に励んでいます。愛媛からは、EPW(愛媛プロレス)。レスラー達と、その “美しすぎる” 代表者の姿に迫ります!

キューティエリー・ザ・エヒメ

ブラック・レザーに身を包み、なんと17cmのハイヒールでリングに立つ。トレードマークは、目元をピンクに縁どったバニーのマスク、その口元にはやはりピンク系リップが艶めく... キューティエリー・ザ・エヒメ(以下、エリー)さんは、日本プロレス界初・女性による旗揚げ団体の代表を務めています。そのたまらなくセクシーな容姿の一方で、彼女のまとう知的な雰囲気と柔和なオーラが、とっても気になる存在。

女性リーダーということで、団体を設立した当初から注目度は高く、講演会などに呼ばれて語る機会も少なくなかったと言います。とはいえ、受け身の姿勢で関わってきただけなら、全国ネットの番組に出演するほどまでに愛媛プロレスの知名度を上げることは叶わなかったでしょう。その成功の理由を尋ねると、一番の要因はメディア戦略である、とエリーさんは断言します。

例えば、シニア向けにはJA(農業協同組合)の媒体、団塊世代にはNHKの番組、そして若者の興味喚起を狙ってYouTubeチャンネルを活用したりとメディアを使い分け、ターゲット層に向けて巧みにアプローチしてきました。彼女自身のSNSでも、コスチューム姿の大胆なポージングをアップする一方で、団体としての告知や活動報告がキメ細かく発信されており、巧みなバランス感覚を感じます。


プロレスの力、愛媛プロレスの力

そもそも彼女がプロレスに着眼したのは、その潜在的なファンの多さ、老若男女を問わない万人向けのアピール力、そして毎回見ても飽きないようなドラマ性があること。地域活性化のためのイベントは多々ある中、それらの弱点をカバーして余りある魅力が、プロレスにはあると言います。

「プロレスでは、誰だってヒーローになれるんです。」目の前の試合に熱狂する観客たちは、選手を応援することで、自分を鼓舞している。頑張れ、負けるなと叫びながら、プロレスを通して自身自身に声援を送っているのだと。そんな何物にも代えられない体験ができるプロレスだからでしょう、実際、選手募集には60人が集まり、多くの老人ホームを含む多方から、興行などの依頼を受けることになります。


出典:愛媛プロレス

その一つ一つに真摯に対応するのはもちろんのこと、プロレス団体として貢献できる機会を探して、愛媛プロレスは自ら動き、活動を展開してきました。例えば、傾斜のきついミカン畑での仕事では、レスラーならではの力を発揮。昨年7月の豪雨の際には、物資4トンをトラック7台に積み、通行可能なルートを割り出して、災害発生の翌日には県内の被災地へと駆けつけました。


出典:愛媛プロレス

とは言え、すべてが順調だったわけではありません。女性としてプロレス団体を立ち上げようとしている段階から、その発想やチャレンジに対するネガティブな声は多く、設立後も、いざ活動を展開すれば、そこでまた新たな批判を受けるという日々でした。

それでも歩みを止めないのがエリーさんであり、愛媛プロレス。例えば被災地でのボランティア活動に際して保険の不備を非難されれば、有り難く受け止めてすぐさま団員とともにボランティア保険に加入。SNSなどを通じて心無い中傷を受けても、恐らくは折れそうになる心を抱えながらも、(その美脚で)次の一歩を踏み出します! 一方で選手たちも、それぞれに前向きな志を持って、活動に取り組んできました。


出典:愛媛プロレス

プロレスが人生になっていく

マスクにマントにラメ入りパンツと、攻めのコスチュームの牛神ウシオニ・キングさんは、プロレスラーになりたいという思いをずっと持ち続けてきました。故郷の宇和島を出て、東京や関西で仕事をしながら、もう叶わないと諦めかけていたところへ、選手の募集が。メジャーの選手と対戦したり、『水曜のダウンタウン』に出演したりと、自分の人生に起こるはずのなかったことが次々と現実になっていきます。

「愛媛プロレスに入ってなかったら退屈で死んでいた」と言うライジングHAYATOさんも、もともとプロレスが大好き。「週末は愛媛プロレス」と言われるように、団体の力の底上げに努めながら、「プロレスラーとして世界一有名になる」という夢を抱く二十歳は、試合出場、SNS発信や奉仕活動などにも積極的に取り組んでいます。一方で、プロレスには全く興味がなかったという石鎚山太郎さん。マッチョボディ&社交性を感じさせる対話センスが印象的ですが、地域活性化というワードに引かれて入団した当初は、大手企業の営業の仕事を兼務していたそう。活動するにつれ、お年寄りや身障者、遠方からの観客なども足を運んでくれる中で、いつしか人々や地域のためにプロレスをしたいと思うようになり、プロレス一本で食べていくと決意するに至りました。


出典:愛媛プロレス
路上プロレスで共演する(?)動物を選んでいる、ライジングHAYATOさん(左)と石鎚山太郎さん(右)

夢を叶えるステージを作りたい

夢が叶ったり、新しい夢が生まれたりと、プロレスを通して様々なドラマが生まれています。その立役者である代表者エリーさんを、選手たちはどのように見ているのでしょうか?

「団員の気持ちを大切にしてくれる」(凡人パルプさん)
「冷静だけど、寅さんのように人情があって面倒見がいい」(ライジングHAYATOさん)

何よりも自分の地元に貢献したいという、凡人パルプさん。その出身地である、四国中央市の観光大使になりたいと聞いたエリーさんは、早速その実現に向けたアプローチを開始しました。その行動力、根底にある選手たちへの思いに背中を押されるように、選手たちもさらに各自の目標に対する意識を強めて、愛媛プロレスの成長に貢献しようとしているようです。


出典:愛媛プロレス

選手たちはまた、情熱のみならず、それを具現化させるエリーさんの手腕にも言及しています。石鎚山太郎さんは、その「大企業のトップにも引けをとらない、俯瞰してものを見る力」を、そして牛鬼ウシオニ・キングさんは、全幅のリスペクトを込めて、その企画力、コーディネート力、マネジメント力などを挙げた他、エリーさんの高い先見性や気持ちの強さについては、もはや選手間の共通認識として口々に語られました。そして、「バニー(うさぎ)なのに、人参が食べられないんですよ」とエリーさんのお茶目な部分への微笑ましい指摘も。

メディア戦略を徹底するエリーさん。チームが一枚岩となることでさらに力を発揮できるよう、リーダーシップを振るってきました。組織内のコミュニケーションを重視し、代表としての考えやミッションについて、グループラインなどのツールを駆使して日々発信しています。また、様々な背景や個性を持つ選手たちが、確実に情報を受け止め、行動につなげられるように、伝わる言葉を選んで語るという努力も。その様子、団体を管理するというよりも、リーダーでありながら、選手たちの最大のサポーターのよう!


 選手たちの喜ぶ姿こそが原動力という彼女。お話を伺っていると、どんな戦略よりもその愛情こそが、勝因なのではないかと思えてきました。そして、愛というキーワードの他にもう一つ、エリーさんを語るに欠かせないものがあります。それは

“美”

愛媛プロレスへの注目度には、女性代表である自身の魅力も含まれていることは、エリーさんならきっと織り込み済みでしょう、美の追求も徹底攻勢で臨みます。ほぼ毎日のトレーニングと食事管理で美しく鍛えられた体に、抜かりないメイク、ネイル。ピンクに染められたその毛先まで美しいエリーさんが、最もこだわるのは「マスク姿が美しく見えること」だそう。

選手たちのディーバとしてリングに立つバニー姿は、確かに最重要ですよね。その徹底したプロ意識と、セルフプロデュース力。根っこにあるのは、地元愛媛と、団員に対する熱い想いでした。

愛媛プロレス代表キューティエリー・ザ・エヒメさん、先ごろ新調されたばかりの二代目バニーマスクをまとって、誇り高く足音高く、さらなる一歩を踏み出します... 愛のために!