ほっこり闘牛ものがたり

国内では現在、6県で実施されている闘牛。その中でも、先日定期大会が行われたばかりの、宇和島闘牛に注目! そこには私たちの知らないドラマがありました。
出典:宇和島市観光物産協会

「牛は、じっと彼を見まもっていた...牛が襲いかかった...つぎの瞬間彼は一方も踏みださずに牛と一体となり、剣は牛の両肩のあいだに高々と突き刺さった。」ヘミングウェイの「日はまた昇る」(大久保康雄訳)で描かれているスペインの闘牛のワンシーン。日本の闘牛があまり知られていないことから、闘牛に残酷なイメージを持つ人も多いと思いますが、日本では、スペインのような人と牛の競技ではなく、牛どうしを闘わせます。その方法、携わる人々の思いとは? 宇和島闘牛ならではのエピソードをご紹介しながら、闘牛をちょっぴり深掘りしてみたいと思います!

日本の闘牛は、牛の相撲のようであると言われます。人間同様、前頭から横綱まで番付がありつつ、相撲と違うのは、大関は大関どうしなど、同じ各付けの間でしか闘わせないこと。力に差のある牛がぶつかり合っても、勝負にならないどころか、ひどい敗け方をして傷ついた場合、即座に廃牛となる可能性があるからです。

闘牛をとりまく人々

宇和島闘牛の伝統を途絶えさせないよう、牛オーナーである牛主(うしぬし)になるという選択をする人々。彼らは闘牛だけでなく牛にも思い入れがあります。3歳のデビューから全盛期の7~8歳を経て、その後も10年以上は生きる闘牛。その間じゅう、牛主手ずから食べ物をもらったり、丁寧に体を洗い、冬には乾燥しやすい角に馬油を塗ってもらったりと大切に育てられます。長くても3年という食用牛の寿命を考えれば、闘牛は幸せであると言われるのも納得。彼らは厳しいトレーニングにおいてさえ、きつい中にも愛情の込もった訓練を受けているのです。


出典:宇和島市観光物産協会

牛舎は、プロ野球チームさながら、等級別に1軍・2軍に分けられています。勝負の世界だからとあくまでシビアでありながら、牛にストレスを与えないよう配慮してトレーニングにあたる調教師。疲れたところでハードなことをさせてもっと鍛えるなどと、スパルタな姿勢は崩しませんが、その一方で、飼育する牛の個性を知り、ちょっとの体調の変化も見逃さない細やかさや、全頭の誕生日も覚えている情の深さに驚かされます。

まるで家族のような温もりを感じさせる牛主の存在、そしてスポーツ選手と監督のような絆で結ばれた、闘牛と調教師。そこにもう一人、外せない登場人物がいます。それが勢子(せこ)。牛に寄り添うことで、勝利へと導くキーパーソンです。闘うのは牛とはいえ、自分の体重の15倍以上もの牛にぴったりと付くのですから、一瞬でも気を抜けば命に関わります。救急車に乗ったことも1度や2度ではないと言いながら、命を懸けて腕を磨き続ける彼ら。弱った時こそ牛のそばに付いてあげるのが勢子の役目と、その役割を全うすることに、勝敗以上の価値を感じているのです。


出典:宇和島市観光物産協会

宇和島闘牛でしか見られないもの

ちなみに、勢子が牛の横にここまで身を寄せるのは、宇和島だけ。そのため、他では見られないような迫力があり、危険度も急上昇しますが、そこから生まれる人牛一体となった勇猛な戦いぶりは、一見の価値あり。他にもここでしか見られない、見どころをご紹介します。

まずは「お~い、出せよ~。出せよ」という掛け声。これを合図に土俵入りが始まり、場内の集中力は一気に高まります。登場した牛は、化粧回しや首飾りなどを纏って、とても華やか。一式揃えれば何十万、何百万円もするそうですが、こちらも宇和島地方に独特の文化。掛け声ともども、宇和島闘牛の誇りを感じさせてくれるのだそう。そして関係者が一番自慢したいことというのが、給金(ファイトマネー)です。通常は勝ち牛の方が多くもらえるのですが、宇和島では逆。負け牛側に6割が支払われます。負けてしまった方は、人も牛もつらい。だから勝った牛には名誉を、より傷ついた牛には給金を渡して励ましたいという、宇和島の人情から生まれた慣習なのです。


出典:宇和島市観光物産協会

単なるレースという枠を超え、人々の暮らしの大きな割合を占めているように見受けられる、闘牛。それは他の地域でも同様のようです。「角突き」という闘牛で知られる旧山古志村(新潟県)では、2004年の中越地震の際、全村避難の勧告を受けてやむなく避難しましたが、その後まだ人々が避難所に身を置く状況でありながらもヘリコプターで牛を運び出し、仮設闘牛場を作り、地震の前に予定されていた日時に、闘牛を開催したそうです。それは追い詰められた村民にとって救いとなるものであり、闘牛を通じて人間が支えられたということ。

現在も、闘牛文化の継承と繁栄を目的に、宇和島を含む全国の自治体や関連団体が集まり、闘牛サミットが開催されています。宇和島でももちろん、闘牛をより多くの人に楽しんでもらおうと、定期大会以外での特別な取り組み(観光闘牛)を行ったり、闘牛場内で取り組みの360度動画を楽しめるVR機器の無料貸し出しなどを行っています。

オススメは、大会当日のみ場内で販売される、じゃこ天。宇和海の新鮮な小魚を骨と皮ごとすり身にして揚げたじゃこ天は、魚の旨味が凝縮されていて美味しくヘルシー。宇和島を代表する郷土料理を食べながら、宇和島を代表する闘牛に興じてみては? いっとき、牛と人と、この地の絆の物語に思いを馳せつつ。



 
宇和島市営闘牛場
TEL: 0895-25-3511
開場時間 8:30~17:00
愛媛県宇和島市和霊町496−2
https://www.city.uwajima.ehime.jp/soshiki/22/syoukou10009.html