大洲和紙を世界へ

美しすぎる和紙づくりに挑む! 愛媛 I ターン経営者に迫ります。

ホームページを開けると飛び込んでくる筆文字の「IKAZAKI」と、画面下に走る金・銀・赤胴色の質感あるライン。インパクトに引き込まれるように画面を展開していくと、それが日本の伝統工芸・大洲(おおず)和紙を扱う会社であるとわかります。清冽な和紙にきらびやかという形容詞を加えるのは、ヨーロッパの金属箔装飾「ギルディング」。日本の和紙に西洋の手法を掛け合わせ、日本の伝統文化を世界へ発信しようと力を注ぐ、株式会社 五十崎社中 代表の齋藤宏之さんにお話を聞きました。

SEから転身、愛媛へ

海外、起業というキーワードは常に意識してきたものの、伝統文化は全く想定外であったという齋藤さん。伝統工芸に向かわせる歯車が密かに動き出したかのように、大手IT企業でのシステムエンジニアとしての職を辞したのは、奥様の実家のある内子町へ移るためでした。その後、伝統産業保護に尽力していた義父の依頼を受け、日本文化の世界発信を目指した「JAPANブランド育成支援事業」の担い手として、大洲和紙づくりに乗り出すことになります。

伝統産業に飛び込むことに、葛藤などなかったのでしょうか?「勢いですね」と、ほぼ即答。「結婚と同じで勢いが大事。迷ったら始めてないです」と齋藤さん。新たな使命をすんなり受け止める放胆さは持って生まれたものかも知れませんが、その決断には、内子の町の魅力も一役買っていたようです。「内子は素敵です。水、空気、空の青さ、食べ物も...」次々と挙げながら、水はとりわけ和紙づくりに関わってくるから大事と言って、和紙についても語ってくれました。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

五十崎社中さん(@ikazakishachu)がシェアした投稿 - 2018年 4月月20日午前1時14分PDT

上質な和紙の代名詞、大洲和紙

大洲の和紙は薄く強く、漉きムラがないため、日本一の和紙と賞賛され、高級和紙として主に書道用半紙や障子紙として使われてきました。戦後の衰退を経て、機械化に進む同業者を横目に、手漉きにこだわった大洲の職人たち。そのおかげで伝統の技術は現在に引き継がれ、今も、清流小田川の水を利用した「流し漉き」の技法で生産され続けています。

国内でも有数の和紙として認知されている大洲和紙、それを生み出す職人たちの姿は、和紙そのものと同じ強いインパクトで齋藤さんの胸に迫ってくるそう。凍るほど冷たい水を使う姿、腰をかがめて作業する姿には、「もはや神々しさを感じる」。彼らに向けた尊敬のまなざしと、代表としての責任感とが、齋藤さんの原動力となっています。
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

五十崎社中さん(@ikazakishachu)がシェアした投稿 - 2016年 4月月28日午後5時15分PDT

和紙の魅力を引き出す“技”

職人が守り抜いた伝統を絶やさないこと、彼らの雇用を守り、和紙産業と地域を活性化させることを社命とする五十崎社中。その実現のために取り組んでいるのが、新しい和紙づくりです。

オリジナルの「こより和紙」は、糸状の紙を編み、木片に入れて漉くもの。原料の絡み具合が和紙に表情を与え、柔らかく光と風を通すスクリーンが生まれます。場に絶妙な空気感を作り出してくれるこより和紙は、道後温泉や内子ビジターセンター(写真)の他、海外でも採用されています。
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

五十崎社中さん(@ikazakishachu)がシェアした投稿 - 2017年 6月月9日午後10時55分PDT

そしてもう一つ、独特の美しい色味と質感を持つ「ギルディング和紙」。金箔を使って家具などを装飾するフランスの技法を和紙に施したのは、ギルディングの第一人者で、のちに齋藤さんの師となる、ガボー・ウルヴィツキさんでした。

家族と共に内子に滞在し、2年間かけてギルディングの技法を伝授したガボーさん。まずは専用の機械を作ることからのスタートでしたが、五十崎はもともと職人の町。彼らの協力的な姿勢に助けられ、町全体がプロジェクトを応援するかのような盛り上がりを見せながら、この目新しい和紙づくりは町に根付いていったのでした。

こうして生まれたギルディング和紙は、五十崎社中の代名詞。アートディレクターの内田喜基さんと共にカメの甲羅、ヘビの鱗、トンボの翅(はね)など、脱皮しながら成長する縁起の良い生き物柄を大胆にデザインしたシリーズを展開したり、愛媛県やディズニーとコラボレーションするなど、ギルディング和紙の特性を生かした商品開発に余念がありません。
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

五十崎社中さん(@ikazakishachu)がシェアした投稿 - 2016年10月月18日午前8時10分PDT

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

五十崎社中さん(@ikazakishachu)がシェアした投稿 - 2016年 5月月15日午前3時49分PDT

また、伝統的な和紙では進出できなかったような分野からの引き合いもあり、ホテルやカフェの壁紙やタペストリーなどとして幅広く活用されています。

独自の和紙づくりを通じて新たな和紙活用シーンを提案し、大洲和紙を盛り上げている功績を評価され、齋藤さんには今年、伝統工芸界における伝統とイノベーションの担い手を称える「三井ゴールデン匠賞」が贈られました。今後の目標としては引き続き、コラボなど伝統産業に新しい風を吹かせられるような方法を模索しながら、特にこより和紙やギルディング和紙を使ったインテリア系の製品を世界へ送り出していきたいとのことですが、目下のターゲットは若い女性だそう。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

五十崎社中さん(@ikazakishachu)がシェアした投稿 - 2018年 3月月21日午後11時55分PDT

ギルディング和紙ならではの質感を生かした「和紙ジュエリー」は、華やかさと上品さ、美しい色みとつや感に心惹かれるアクセサリーです。ガラスの中にギルディング和紙が埋め込まれた姿は、和洋の美が凝縮されたような存在感。こちらを体験できるワークショップも人気で、つい先日台湾で行われた、沖縄のリウボウデパートによる「カワイイ・美・匠」がテーマのイベントも大盛況、女性客の注目を集めていました。
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

五十崎社中さん(@ikazakishachu)がシェアした投稿 - 2018年 8月月28日午前1時45分PDT

伝統工芸の未来を担うというと夢がありますが、同時に重責でもあるはず。それでも毎日楽しく和紙づくりに励んでいるという齋藤さん。気負いは感じられません。大洲の和紙や住む町を好きだと語るのと同じ口調で、猫とじゃこが好きと言い、じゃこ天の美味しさを無邪気に語ってくれます。

五十崎の自然、受け継がれてきた伝統、それらを継承する人々の姿勢。その只中に根を下ろした齋藤さんは、和紙とその生産者たちという、大切なものを守り育てたい思いでありミッションを冷静に受け止め、実現の道を探り、あくまで自然体で向き合っています。 実は異色の転身ではなく、自然な運命だったのでは? そんな印象を受けるほどに肩の力が抜けていながら、全身から前向きのエネルギーを漂わせて、齋藤さんは今日もその美しい土地で美しい和紙を作り、発信し続けます。日本の和紙でなく大洲和紙として、その名が世界へ知れ渡る日を見つめながら。

 

株式会社 五十崎社中
愛媛県喜多郡内子町五十崎甲1620番地3
TEL:0893-44-4403
https://www.ikazaki.jp/