優しく揺らぐ灯。内子でひとつひとつ手作業の和蝋燭の職人技に触れる
日本文化として長い歴史のある和ろうそく。温かみのある炎が特有の魅力をもつ和蠟燭は、イギリスにある世界最大級の博物館・大英博物館のホームページ上でも紹介されています。

世界中で日本にのみ生息する天然のハゼの実を使って作られ、蝋が垂れにくく、炎が大きく明るいのが特徴です。
江戸時代以降、寺社や武家向けに生産が拡大し、本格的な生産が進みました。明治時代から昭和初期にかけては庶民に親しまれ、数百を越える業者が和ろうそく製造に携わっていたといわれています。
技術の習得に時間を要し、1本1本手間暇をかけて作られる分コストも高い和ろうそくは、洋ろうそくの普及とともに専門業者の数も減り、現在では全国に20軒ほどが残るのみとなっています。そのうちのひとつが、愛媛県内子町にある大森和蝋燭屋です。
江戸から明治にかけて木蠟と和紙で栄えた内子町。木蝋とは和ろうそくの原料で、ウルシ科のハゼの実を細くつぶして蒸して、それを圧搾して採取したもの。生蝋とも呼ばれています。
ハゼは沖縄(琉球)原産の日本特有の植物。松山ハゼや伊吉ハゼなど種類は複数ありますが、年々その数は少なくなっていると言われています。
木を傷付けてしまうと、翌年以降実がならなくなるため、7mぐらいある木に長いはしごを掛けて、木を痛ませないように、ひとつひとつ手でちぎって採取する、とても繊細な植物です。
明治の終わりごろの最盛期には、内子は日本の木蝋の3割を生産していたとも言われています。

内子町内に伝わる「はぜとり唄」では、
”離れ小枝が おそろしい はなれ小枝は しぼりもなるが 綱が切れたら 命まで めらというたが 折れねばよいが 折れりゃ旦那の 目が光る”
と歌われており、時には命がけでハゼの実をとっていたことが伺えます。
ハゼの実を収穫するのは寒い冬。この歌は凍てつく風の中細枝の上で収穫をする人が、お互いの安否を気遣って歌われていたように感じられます。
創業約200年続く大森和蝋燭屋では、2人の職人が和蝋燭を作る様子を間近に見学することができます。

和蝋燭は木蝋を素手で転がしながら芯に擦り付け、乾かす繰り返し「生掛け(きがけ)」と呼ばれる作業を繰り返し行い、仕上げに熱めの蝋でツヤをだして出来上がります。
1本1本手間をかけ作られる和蠟燭は、仕上げに50度の蠟で一種、独特なウグイス色のツヤを出し出来上がる逸品。丹精込めて作る蠟燭はすべての行程が手作業であり、熟練するまでに長い年月が必要な職人技を要するものです。

お店では和蝋燭のお買い物もできます。短いものから長いものまで種類はさまざまにあり、1本270円から購入できます。
天然素材を使用し、何重にも塗り重ね仕上げた和ろうそくは切り口が年輪状になっており、色も絵も全く付けない素朴な趣があります。
お仏壇用の実用的な用途としても、インテリアとしても喜ばれているそう。
煤が少なく風に強くて、無風であれば蝋が垂れることもない、揺らぎがあり温かみのある灯は心癒されます。日頃馴染みのある西洋ろうそくとは一味違った和蝋燭、内子町でその世界に浸ってみるのもおすすめです。