日系移民の古民家をゲストハウスに。「汐見の家」が素敵すぎる

しまなみ海道の中に点在する島のひとつ、佐島。人口およそ500人のコンビニも無い小さな離島に、大人気の古民家ゲストハウス「汐見の家」はあります。

初めてなのに懐かしく感じる日本家屋に五右衛門風呂。宿泊者やスタッフみんなで一緒に準備をして食卓を囲む「シェアごはん」など、日本の古き良き生活習慣や心温まる交流を求めて、旅行者やサイクリスト達が国内外から羽根を休めにやってきます。


2016年4月にゲストハウスに生まれ変わった古民家。実は30年ほど空き家状態で眠っていましたが、まるでこの家が自らの意思で封印を解くような、歴史と人の繋がりによる温かいストーリーがありました。

所有者の心を動かした建築美と祖先の歴史

時は2012年4月。この古民家の家主の曽孫にあたる、現在のオーナー西村暢子さんはやってきました。すでに家主は亡くなってしばらく経ち、交通の便も決して良くはないため簡単には行けない立地。「地元のどなたかに使ってもらえたら」くらいの気持ちで、家を売る予定でした。

ところが、家の状態を確認しに訪れると、クラシカルな日本家屋と洋風文化が入り混じった家の佇まいがなんとも素晴らしく、思わず立ち止まったのでした。

見かけは日本家屋そのものなのに、扉を一枚開くとアメリカ風のピンク色のタイルにガラス戸のシャワー。和洋折衷のような不思議な造りの家。西村さんは「きっと日本家屋を愛しつつ、水回りは快適性のあるものを使いたかったのでしょうね」と先祖の思いに想像を巡らせました。


改めて家の歴史を調べてみたところ、西村さんの大叔父にあたる人は日系アメリカ移民としてドラマチックな人生を送った人だったことが分かりました。そして、まだ海外と日本の移動が決して容易ではなかった時代にも関わらず、何度も国間を移動して、この家を愛し、大切にしていたことが分かったのです。

アメリカに渡った​曽祖父​と、日米を愛した​大叔父

西村さんの大叔父であるロバート・ハジメ・汐見さんは佐島に生まれました。その父・佐市さんは1907年、彼がわずか3歳​の時に、母と兄を残して単身アメリカへ渡りました。

13​歳​になったハジメさんは父の元へ単身渡米します。英語名をロバートとして、現地の小学校へ入学。オレゴン医学部に進学し、医師となりました。第二次世界大戦をこえて、ポートランドに戻り、2004年に99​歳​の生涯を閉じるまでその地で暮らしました。


「汐見の家」はハジメさんの実家です。この家は彼の母・マンさんがずっと守っていました。ハジメさんは13​歳​、兄・一郎さんも10代で佐島を離れ、長い間マンさんが一人で住んでいたようです。

ハジメさんは医者としてアメリカで成功して豪邸に住むようになっても、晩年この小さな汐見の家に足しげく訪れていたようです。これは筆者の推測ですが、きっと母の姿や思いを重ねて、この家をより大切に思ったのではないでしょうか。

学生、ボランティア、近隣住民...多数の温かい協力が集合

大切さは分かったものの、自分の住む家でもないのに多額のお金がかかる再建。西村さんは1年半ほど悩んだ末に恐る恐る一歩を踏み出しました。

右も左も分からない中で、愛媛県古民家再生協会へ相談、古民家鑑定を依頼しました。同協会の武知美穂理事長は「佐島ならではの建築様式を備えつつも、ガラスの使い方や建具が小粋。随所にアメリカらしい洒落たディテールが垣間見られ、この古民家の再生にはわくわくしました」と当時を振り返ります。

当時、協会では職人や技術者の後継者育成を目的に松山市の専門学校の学生たちと協力して「古民家再生プロジェクト」を遂行し始めたばかり。汐見の家の再生はプロジェクトの第二弾として、40名の学生が加わりました。


学生たちは現地調査を行った後、6班に分かれて再生プランをプレゼンテーションしました。このプランの最優秀案を元に「汐見の家」を修繕。

さらに、ボランティアで五右衛門風呂の蓋やすのこなど、様々な部材を手作りしてくれたり、内装を直してくれる人も現れ、色々な人の想いで30年間空き家だった家が素敵なゲストハウスへと再生されました。「汐見の家」はこうして新たな姿に生まれ変わったのです。


古民家を残すアイデアのひとつがゲストハウスでした。趣味の良い小さな家なので、和風オーベルジュという案もありましたが、生涯にわたり日米の​相互​理解を願ったハジメさんの想いを汲み、交流の生まれる場にしたいという想いからゲストハウスに決めたのです。

西村さんは古民家再生はもちろん、ゲストハウスの運営も全くの未経験。未知なるゲストハウスのいろはを学ぶために各地を旅したそうです。


開業祝いの時にはそれまでに関わった人に加え、島の人たちも招待しました。

ヨソモノが集まるゲストハウスな上に、管理人は移住者。当初は​地域​の理解を得るにも時間がかかるかもしれないと不安に思うところもありましたが、みなさん温かく見守ってくれたそうです。

今では管理人のけいこさん一家とみえさんもすっかり島に馴染み、時には近所の方々がおかずを持参して夕食に加わるほどになりました。この温かいおもてなしは、宿泊者にとって「汐見の家」を一層印象深くしてくれています。

交流の場や移住のきっかけにもなった、笑顔溢れる「汐見の家」

最初は人が集まるかと心配した「汐見の家」ですが、今では口コミ評価の高い人気宿になりました。サイクリストだけでなく、この宿を目当てに佐島を訪れる人もいます。「汐見の家」での時間をきっかけに佐島の古民家へ移住を決めたツワモノたちもいるそうです。


素泊まり1泊4,000円。人気のひとつ「シェアごはん」は、スタッフと当日の他の宿泊者とで準備から片付けまで一緒に行います。夕食1,000円、朝食400円ととってもリーズナブル。料理の得意な人がいたり、魚や野菜の差し入れがあったり「思いがけない食事になることもあって楽しいですよ」と西村さん。


こんなに笑顔がたくさん集まる家になって、今ごろ家主のハジメさんは空の上から微笑んでいるのではないでしょうか。皆さんも、「汐見の家」で、心温まる古民家の時間を過ごしてみてはいかがでしょう。

写真出典:汐見の家

 

ゲストハウス 汐見の家
TEL:0897-72-9800
愛媛県越智郡上島町弓削佐島299
予約: shiomihouse@gmail.com
http://shiomihouse.com/about/
愛媛県古民家再生協会
TEL:​89-956-0105
愛媛県松山市北井門2丁目25-16-101
https://www.ehime-kominka.com/