発見した星105個!久万高原の小惑星ハンター・中村さん

夜空を見上げると​満天の星ー​。
「ベガ」と「アルタイル」に七夕の織姫と彦星の恋物語を重ねたり、冬の澄んだ夜空に赤く光る「ベテルギウス」にオリオンの勇猛な姿を描いてみたり。天体観測でロマンチックな世界を膨らませたことはありませんか?

出典:久万高原天体観測館

聞けば習ったような星の名前ですが、肉眼では見えないような小さな星ひとつひとつにも名前が付けられています。その中には「ジャコテン」や「ドウゴオンセン」など、実は愛媛人の心をくすぐる星たちがたくさんあるのです。

名付け親は愛媛県中央部に位置する、久万高原天体観測館の中村彰正さん。日頃は学芸員としてプラネタリウムや天文台で星の魅力を伝えていますが、これまでに105個もの小惑星を発見し命名している日本屈指の「小惑星ハンター」なのです。

久万高原天体観測館は、天文好きの間では有名な星空観測のメッカ。105個の小惑星とも全てこの館で出会いました。

初めての出会いは偶然に。偶然のタイミングで見つけた小さな点
出典:久万高原天体観測館

中村さんは1992年から同館の職員をしていますが、元は星の発見にはさほど関心がありませんでした。初めての小惑星発見も偶然の賜物。1994年、彗星観測をしていたある日のこと、いつもと同じ様に望遠鏡を​夜空に向けて撮影した写真に、見たことのない点が写っていた​のです​。

ピンときて、すぐに調べてみたところ未発見の小惑星であることがわかりました。彗星は常に移動し続ける星。この日この時間に見た彗星の位置が、たまたま未知の小惑星と重なる場所だったのです。

発見当時の1990年代は、小惑星ブーム真っ只中。​この発見は特に注目されることはありませんでしたが、その命名が公表されると、一般の人々からも注目を集める大きなニュースとなりました。

中村さんは、長年観測館の職員として、星を知ってもらうための活動をしていましたが、この時の反響は比べものにならないほど大きく、とにかくびっくり。普段、星の世界に関心が無い人までが興味を示してくれたことに手応えを感じ、小惑星を見つける事でより多くの人が天文に興味を持ってくれるなら、腰を据えて探したいと思ったのでした。

この時から中村さんの小惑星ハンティングが始まりました。学芸員の仕事の傍らで小惑星捜​索に​勤しむ日々。すべては、愛する星たちの魅力を多くの人に知ってもらうために。

愛する郷土にちなんだ星に。ローカル色豊かな命名

小惑星の名前は、その発見者に命名提案権が与えられます。提案が国際天文学連合の委員会で審査され、適切と認められると、その名が国際的に通用することになりま​す。

中村さんは出身地・山口県の歴史人物「高杉晋作」から名付けた「晋作」など、中村さんは見つけた小惑星のほとんどに愛媛県や山口県にゆかりある名前をつけています。

出典:久万高原天体観測館(じゃこ天)

小惑星は中村さんの努力により、次から次へ発見されました。「久万」、「今治」、「宇部」など、愛する愛媛県や山口県にちなんだ名前をつけていきます。しかし、小惑星の発見数が続くと、​目新​しさに欠けるようになり、世間の反応も落ち着いてしまいました。

遊び心を入れたネーミングが奏効し、再び注目を集めた

「この頃は、以前ほど注目も集めていなかったし、ちょっと遊んでも誰も気にしないだろうと思った」と、中村さん。たまには気負わず名前を付けてみようと遊び心が湧いて、新たに見つけた小惑星に「仮面ライダー」と「藤岡」の名をつけました。久万高原出身の藤岡弘、さんと、その代表作です。

出典:久万高原天体観測館 (藤岡)

ところが、この斬新なネーミングには世間も驚かされました。ユニークさがメディアの話題をさらい、往年のライダーファンや藤岡弘、さん本人も喜ぶ騒ぎとなったのです。思わぬところで、本来の目的である星の魅力発信が再び叶う事態に中村さんも驚きました。「二度目のびっくりです。だって、何かを狙ったつもりは全然なかったんですから」。

こうして中村さんは、これまでの「きちんとした命名」から、「相当にカジュアルな命名」スタイルに大きくシフトしました。独自を発揮し、久万高原で撮影された人気ドラマの登場人物「リカ」、「カンチ」や、松山からラッピング列車の走る「アンパンマン」、「やなせ」など、個性派の小惑星が続々と誕生したのです。

関係なさそうな「ハワイ」も、実は愛媛県の姉妹都市ハワイ州にちなんだもの。きわめつけは、愛媛の特産品「じゃこ天」!いくつもの小惑星発見はもとより、周囲を喜ばせる奇想天外なネーミングセンスを発揮したのです。

歳月をかけて決まる名前

発見者の名前がそのままつく彗星と異なり、小惑星は、発見後すぐに名前が確定するわけではありません。発見→認定機関に申請して仮符号をもらう→発見した小惑星の観測を続け、軌道を確定→命名のステップがあり、発見から​確定までは5年ほ​どかかります。


宇宙空間の遠方に位置する「じゃこ天」は命名までに10年もかかりました。小惑星には商品名や自分の名前を付けられないなどの規定もあります。中村さんの名前「Akimasa」の名がついた星は、知り合いが発見した際に命名してくれたものです。

自分の名前は命名出来ませんが、家族はOK。実は中村さんも家族の名を小惑星に付けています。どの星か尋ねると「さて、どれでしょう?(笑)家族の名前を付ける人はたくさんいますよ。私たちの仕事は家族の協力なしには出来ませんから。感謝の意味合いもあるはずです」

数がおびただしくあることを「星の数ほど」と言いますが、その中のひとつひとつに、こうした感謝の想いがあると思うと、これまでの星座の物語の他にも、温かい気持ちが湧いてきますね。

 

久万高原天体観測館
TEL:0892-41-0110
愛媛県上浮穴郡久万高原町下畑野川乙488番
http://www.kumakogen.jp/site/astro/