中秋の名月を愛でる「八日市町並観月会」で、幻想的な秋の夜時間を満喫
柔らかな行燈の灯りに、美しく浮かび上がる白壁。
飴色に照らされた町家の連なりはどこか懐かしくて、かすかに響く琴の音に耳を傾け、のんびりと月を見上げて歩く。
まるで映画のワンシーンのような世界ですが、ここは現代の愛媛県内子町。同町八日市護国地区は、江戸時代後半より木蠟(植物性のワックス)で栄えた商業の町で、栄華を極めた時代に建てられた良質な町家がそのまま残されている、歴史文化的にとても貴重なエリアです。

この美しい家々が残る八日市護国地区では、毎年町をあげて「八日市町並観月会」を開催しています。観月会とは、中秋の名月を愛でるお月見の会のこと。幻想的な街と美しい名月の織りなす時間は唯一無二の美観です。

観月会が始まるのは日も暮れて涼風の吹く夕方6時ごろ。次第に色濃くなる宵闇の中に、ほんわりと行灯のあかりが灯されます。

特産の和紙を使った行灯はどれも美しく、見ものです。暗くなるにつれて月見の人々も集まり始め、町並みにも賑わいが出て、空には金色の月が私たちに微笑むように佇んでいます。

木蠟と和紙で栄えた八日市護国地区。通りでは「はぜとり唄」の踊りも催されます。「ハゼ」とはウルシ科の木でこの木の実が木蠟の原料となります。
「はぜとり唄」は江戸時代後期から明治にかけて木蠟生産に携わった人たちの労働唄。この街の伝統で、歌詞に耳を傾けると、命懸けで農民たちが細く高い櫨の木から実を取っていた様子が浮かびます。

木蠟で作った手作りのキャンドルも、行灯の一部に使われています。木蠟で作られる和ろうそくは西洋ろうそくよりも明るく、風がなくても揺らめく炎には癒しの効果があるとも言われ、心が和みます。
また、手漉きの大洲和紙を使った行燈の展示や、箔飾和紙展も併せて開催。フランス発祥の金箔技法「ギルディング」とコラボした華やかな和紙などを楽しめます。町家では筝曲の演奏も行われ、外に漏れ聞こえる美しい琴の音に夢心地です。一音一音がジーンと響き、お月見を楽しむしっとりしたムードを高めてくれます。

2017年は高昌寺で、20食限定/800円(税込)で精進料理も提供されました。

また、町並保存会女性部による手作りの月見だんごも販売されます。お月見には欠かせない美味しいおだんご。毎年大変好評で、すぐに完売してしまうそう。お客様のために準備する女性部のみなさんもとっても楽しそうです。

地元民も観光客も、美しいひとときを楽しむ。伝統を感じる心を確かめ合って2日で延べ約2,200人を集客する、例年人気の観月会。日程を「中秋の名月の日」に合わせて休日開催ではないことや、開催時間が18時以降であることから、来場者の多くは近隣住民の方です。
馴染みの町が行燈で幻想的に照らされ、美しく彩られる様子は、地元の人たちにとっても感動モノ。

定評となり、近年は「この催しを見たい!」と、観光客もやって来ます。観光写真や口コミでファンになった人も多く、このために内子へやってくる人がほとんど。他の観光ついでに来るという「ながら」の人は少ないそうです。
また、アジアや欧米など、外国人観光客も増えています。月を愛で、だんごを食し、情緒ある雰囲気を楽しむ「お月見」を堪能し、「日本ならではの伝統行事に参加できた」と、とても喜ばれているそう。来訪者のリピート率が高いのも、この催しの特徴。翌年の日程を聞いて帰る人たちも多く、実際に再訪してくれる率も高いようです。
地元の人も、観光客も、美しい町並みと月見を楽しむ、たった一つの目的を共有して、一緒に過ごせるのがいいですね。
観月会開始から20年を超えた今、基本は保ちつつも、時代に合わせた変化も関係者の中では検討中されています。例えば日程。観光客の動向を鑑みて開催日数を増減させるなど挑戦してみたいそう。
また、催しの内容を変えることなども、新たなチャレンジとして視野に入れています。伝統を大切に、愛する町の持つポテンシャルを最大限にいかし、景観を保全し、さらに愛される観月会を目指して…。
お月見自体は日本各地で催される伝統行事ですが、町ぐるみで別世界にワープしたかのような感覚に浸れるのは、多々あるイベントのなかでも、なかなか無いのではないでしょうか。
開催日時:毎年中秋 の名月及び連続する日の2日間/各日18:00~
駐車場:有※当日17:00より無料
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