宇和海の豊かな海を守る、遊子地区の未来を見据えた取り組み
愛媛県宇和島市の遊子(ゆす)地区は透明で美しい海の地域。宇和海に突き出る三浦半島の北側の古くから漁業が盛んなエリアで、現在は魚類や真珠の養殖漁場としても有名です。石垣を積み上げた、「耕して天に至る」とも称される段々畑は日本農村百景にも選定されていて、その眼下ではたくさんの良質な魚が水揚げされています。
素晴らしい環境を誇る遊子ですが、決してほったらかしで綺麗なわけではなく、良質な海を保全するために協力しあっている漁協組合員らのたゆまぬ努力があるのをご存知でしょうか。
遊子の海が養殖に適している理由は大きく3つあります。
まずは定期的に黒潮が流入する事。潮流の通りがよく、魚や貝はミネラルたっぷりの栄養豊富な海水のなかで育つことができます。海水交換がされ、風や地形により海水に動きが出て、海中に酸素も溶け込みます。
2点目は、リアス式海岸による地形的な強み。海が細長く入り組み、海内で急峻に落ち込み最大水深は60m超、これらが深い入江を作り上げています。これは水深が深く、魚類や真珠の養殖にとても適した地形なのです。
3点目は、黒潮の影響により、年間を通して養殖に適した海水温を保てる事。13〜28℃の温暖な水温帯で、安定した管理の中で良質な魚貝を育てられるのです。
一番多く養殖されているのがマダイで、他にハマチ、シマアジ、カンパチなど。さらにマハタ、イサギ、マサバなど、遊子の養殖は多彩です。難しいとされる真珠養殖も行われていて、遊子の真珠は、通常のものより巻きや層の厚い、ハイグレードなことで知られています。
遊子の人たちにとって、この恵まれた海はかけがえのない財産であることが伝わります。
養殖に栄える反面、残念ながら天然魚は減少傾向にあります。遊子では副業的に小さな規模で天然魚を採っている漁師はいますが、天然魚を軸に生活の糧にしている漁師はほとんどいないのが現状です。
天然魚が減少している要因となっているのが海草類の減少です。「磯焼け」とよばれる現象で、海流の変化やウニなどの藻食動物の影響、環境汚染など、原因は諸説あります。
海藻がなくなると、魚類の生活や産卵する場がなくなり、光合成によって排出されるはずの酸素も減少し、生態系のバランスが崩れ、魚がいなくなってしまうのです。
美しく見える海も、突発的に有害プランクトンによる赤潮が発生する事があります。真珠のアコヤ貝や魚たちが甚大な被害を受ける年もありこちらも問題となっているのです。
遊子漁業協同組合は、赤潮の発生状況を、スピーディに把握するため赤潮発生時期には、現地調査を徹底して行い、また近隣の赤潮発生状況も把握するように努めていますが、解決に向けてまだこれからの状況です。
解決の糸口となる環境保全のためには、地道な努力が必要と同漁協メンバーは考えます。組合では、海の日に行う海域清掃活動や「海の健康診断」、海底の泥調査などを行い環境保全への多岐にわたるアプローチを続けています。
また、漁協女性部では、海岸周辺の清掃のほか、使用済みてんぷら油をリサイクルしたせっけん作りを通じて、合成洗剤の使用を控えるなど呼びかけています。
ちなみに女性部では 2008年から「遊子の台所プロジェクト」と銘打って、キッチンカーでイベントに出向き、遊子の海で採れた海産物を使った商品を販売し、遊子の知名度アップや安心・安全な養殖魚のPR活動に取り組んでいます。
この取り組みは2012年、第51回農林水産祭 水産部門で内閣総理大臣賞を受賞。漁村活性化優良事例として全国に紹介されています。
「海の心を一つに」。これは、古くから受け継がれた遊子漁協の海を愛する精神です。世界的に天候や海内環境が変わっている現在の状況を鑑みると、10年20年後が同じ環境を保てている事は大変難しいはず。
遊子漁協の皆さんは心を一つにし、恵まれた漁場環境を守り、安全・安心を第一に考え、日々愛情を込めて魚たちを育てています。