国重要文化財で坐禅体験。地域と名刹をつなげる「 The ZEN 如法寺もりあげ隊」

近隣住民の心の拠り所である寺社。ただ、最近は多くの寺社が存続の危機に面しているとも聞いたことがあります。殊に、寺は檀家の高齢化やコミュニティの過疎化、後継者不足など、かねてからの問題がいよいよ形となって影響を与え始め、このままでは近い将来77,400(※)ある寺の数は、半減するとさえ言われています。
そんな衰退危機の一方で、僧侶やNPOなどによる新たな取り組みも目立ち始め、お寺をカフェとして一般開放したり、朝ごはんの会を開いて檀家以外の人々と交流したり、中には元DJの僧侶が寺社フェスで6,000人以上の来場者を集めたりするなど、様々な仕掛けが行われています。そんななか、愛媛県の大洲市でも、和装の坐禅会をきっかけに、息を吹き返した名刹があります。立役者の中心は地元のママたち。グループ名は気持ちそのままの「TheZEN如法寺もりあげ隊」です。
愛媛県大洲市の如法寺の仏殿は国指定重要文化財に登録されており、荘厳なお堂と四季折々の自然が美しい庭を併せ持つ名刹です。加えて、大洲藩主の菩提寺でもあるという、地元きっての由緒あるお寺です。この山深い寺院で行われる坐禅会が、地域の新しい交流の場として注目を集めています。参加者の顔ぶれは様々。子供からお年寄りまで、幅広い世代がこの会を楽しんでいます。

如法寺の坐禅会では、重要文化財の仏殿内で坐禅ができ、希望者は和装を着用できます。また、掃除などの作務や、茶礼、寺院内拝観など、ちょっとした修行体験を経験することができ、地元の人だけでなく、遠方からも体験者がやってきます。
如法寺の坐禅会の魅力のひとつである、身にまとうだけで、気分が華やぐ和装。女性の参加者のほとんどが着用を希望するそうです。普段経験できない体験に子供達だけでなく、大人の女性も自然と笑顔になります。和装ではなく坐禅目当てで来た人でも、帰り際にちらっと「和装できたのが一番良かった」とスタッフに耳打ちすることもあるそう。

坐禅会で着用する和装は袴か作務衣。色がはっきりしているので、とにかくフォトジェニック。特に、ハイウエストの袴は視覚的な足長効果もあり、スタイルを良く見せてくれます。白壁を背景にした紅葉や、樹齢150〜300年の県指定天然記念物の椿の前などは、おすすめの撮影スポットです。

如法寺では、坐禅の間だけでなく、お茶や掃除も和装のまま行ないます。「気」の中心、丹田を締めるからでしょうか。姿勢がしゃんとして、汚さないようにと気をつけることで、所作も自然と整います。たとえ坐禅会の間という、短時間の着用でも心身に影響するため、坐禅会をきっかけとして和装の良さに目覚め、着付けを始める人もいるそうです。
大洲藩主の菩提寺という、地元きっての名刹・如法寺。格式が高い寺ゆえに、近年まで一般の参拝客が訪れることが少なかったそう。今のような開かれたお寺に変わったのは、和装の坐禅会がきっかけでした。初回は2016年の「えひめいやしの南予博」という、そうそうたる大舞台だったそうです。
南予博での坐禅会を運営したのは、当初は期間限定の予定だった、サポート隊「TheZEN如法寺もりあげ隊」。メンバーは30〜40代のママが中心で、如法寺とはもともと、子供たちの和太鼓サークルでご縁がありました。南予博での坐禅会開催が決定した際に、いつもお世話になっているお寺のために、ひと肌脱ぎたいという想いでメンバーが結成されました。とはいえ、メンバーの中にイベントや企画経験者はゼロ。何も分からない中、手探り状態でのスタートでした。

メンバーはひたすら悩みました。ただ、そんな中、袴や作務衣の和装着用については、スルリと自然に出てきたそうです。和太鼓で普段から馴染んでいたからでしょうか。来場した子供達の誘導方を考えたり、親しみやすい手描きの案内書を作ったりと、細やかな工夫を重ねました。こうした苦悩の結果、坐禅会は大成功。参加した人たちから継続希望の声があがり、南予博後もサポートを続けることになりました。

子どもの参加率が高いことも、如法寺坐談会の特徴です。子供達は、ただ楽しむだけでなく、尊い存在への畏敬の念も感じているもよう。もりあげ隊メンバーのひとり、西山さんは「普段賑やかな子でも、坐禅会ではなぜかいい子になるんです(笑)。仏殿は明らかに外の世界と違いますし、子どもなりに何か感じるものがあるんでしょうね。ここでは、お掃除などの作務も嬉々として取り組んでいますよ」 と、子どもの成長を実感されています。

地域のお寺としての如法寺の魅力は、まだ伝わり始めたばかり。庭園や藩主加藤家の墓所ほか、見所満載なのにもかかわらず、大洲市民のほとんどは来た事がないというのが現状です。坐禅会には地元の年配の方も多数参加しますが、初めて来たという人がほとんどです。
皆さん口を揃えて「長年気になってはいたけれど、気軽に立ち入れなかった」とのこと。実にもったいない話です。もりあげ隊の目下の目的は、大洲市民がひとりでも多く足を運んでくれるようにすること。坐禅会以外にもお祭りなどの催しを加え、お寺と地域の繋がりを少しずつ強めています。もりあげ隊の取り組みは、まだまだ始まったばかりです。
愛媛県大洲市柚木943